『 俺は猫である (前編) 』






               甚平は様々な文字が書いてある本の背表紙を眺めていた。
               どれも様々な言語で書いてあって、甚平にはさっぱりだった。
               先ほどまでは他のメンバーもいたのだが、話が終わるとさっさと引き上げてしまった
               ので、甚平一人研究室に残っていたわけだ。
               入ってきた南部博士はそんな甚平を見て話しかけた。
               「なんだ甚平、まだ帰ってなかったのか。店は大丈夫なのか」
               甚平は振り向くことなく答えた。
               「うん、平気だよ、お姉ちゃんきっと兄貴たちと一緒だよ。店は夜開けばいいんだ
               し」
               「そうか」
               「それにさ、いっつも店の番か買い物ばっかりでさ。疲れちまうよ。たまにはのんび
               りしなくちゃ」
               博士はやれやれという表情をした。
               「ねえ、博士。ここすごいですね。本ばっか」
               博士は笑った。
               「そうだろう。研究に欠かせない書物ばかりだ。どの本も私の知識を広げてくれてい
               る」
               「オイラなんか見ただけですぐに眠れそうだよ」
               「ははは」
               そこへドアが開いて研究員が入ってきた。
               「博士、例のものを持ってきました」
               「ああ・・そうか。で、今度は大丈夫だろうね」
               「はあ、たぶん・・」
               「たぶん、とはなんだ。」
               「幾分まだ実験中なもので・・」」
               そこへ他の研究員が通りかかり、開いているドアから顔をのぞかせた。
               「おーい、ちょっと手伝ってくれ」
               「あ、ああ」
               研究員は持ってきたものを棚の空いている場所に置くと会釈をして部屋を出て行っ
               た。
               「ねえ、博士ー。もうオイラ帰るよ」
               「ん?そうか」
               そして何かを思いついたように棚へやってきた。
               「何かあったな。ジュンに何か持って言ってやりなさい」
               そう言って箱らしきものを置いた。
               「それなあに?」
               「アンダーソン長官から頂いたものだ。コーヒーでね」
               「何だ、お菓子じゃないのか」
               「はは」
               「ねえ、博士。その奥にあるお菓子も欲しいな。お姉ちゃんの機嫌を取るには甘いも
               のじゃなくちゃ」
               「甘い物?(手に取る)・・・これは見たことがないな。誰が置いて行ったんだ」
               しかし博士はそれをも甚平に渡した。
               「まあいい。それでは気をつけて帰るんだよ」
               「はーい」
               甚平はそれらを抱えてスナックJへ戻った。


               スナックJはいつも昼間は閑散として静かだ。
               いつもこの時間を利用して忍者隊のメンバーがやってくる。
               甚平が皿洗いをしているとジョーが入ってきた。
               「何だ、誰もいないのか」
               「うん。お姉ちゃんは買い物だって。なーんか欲しいものがあるんだってさ。化粧品
               か何かじゃない?つけたって代わり映えしないのにさ」
               「何言ってんだ。ジュンだって女の子だ、綺麗になりたいんだろ」
               すると甚平は皿を置いてカウンターから出てきた。
               「いけね、洗濯物取り込まなきゃ。それじゃジョーの兄貴、ここで番しててよ。そこ
               にあるものでも食べてて」
               「え?俺、甘い物はあまり得意じゃねえんだがなあ」
               しかしもう甚平は二階へ上がってしまったので、ジョーは諦めたようにトレーの中に
               あるクッキーのようなものに手を伸ばした。
               やがて干してあったとみられるタオルやおしぼりなどを両手に抱えて甚平が降りてき
               た。
               「よいしょ・・っと」
               そしてそれをカウンター脇に置いた甚平は水を飲んだ。
               「やれやれ、これまた畳むのめんどーなんだよなあ。ねえ、ジョー、手伝ってーーー
               あれ?」
                甚平は辺りを見渡した。
               「ジョー?ジョー、もう帰ったのかなあ」
               「ニャー」
               「・・・?」
               甚平は先ほどまでジョーが座っていた椅子の下に1匹の猫がこちらを見上げているの
               を見た。
               「あれ?いつ来たの?ダメじゃないか、勝手に入ってきちゃ」
               甚平はそう言って猫の首根っこを掴み、顔の高さまで上げた。
               「うわー、怖い顔してんなー。ジョーの兄貴そっくり」
               「ふにゃーっ!」
               猫は怒ったように爪を立てて甚平の顔を掻いた。ので甚平は猫を睨んだ。
               「いてえ、何すんだよ、こいつ!」
               そこへドアが開いて健と竜が入ってきた。
               「おい、甚平。猫なんか連れてきて大丈夫か?ジュンに怒られるぞ」
               「だって〜」
               「甚平はしょうがないのお」
               「違うよ、猫は〜」
               そしてジュンが遅れてやってきた。
               「ごめん、ごめん、甚平。目移りしちゃって」
               「もう、お姉ちゃん、化粧なんかしたって無駄なんだから買うのやめなよ、もったい
               ないよ」
               「まっ、何よ無駄って」
               「まあまあやめろよ」
               そう言って椅子に腰掛けた健だったが、ジュンの鋭い視線が刺さった。
               「それだけ?ジョーだったらもっと気の利いた事言うに決まってるわ」
               「ニャー」
               「あら?」
               ジュンは甚平に首を掴まれてぶら下がっている猫を見た。
               「ダメよ、甚平。そんな事しちゃ。貸してごらんなさい」
               ジュンはそう言って猫を甚平から奪うように取り上げると、自分の胸に抱き寄せた。
               「ほうら、こうやって抱けば大人しくなるでしょ?」
               ジュンはそう言って微笑んだが、猫は顔を赤らめ慌てて背けたが、甚平と目があって
               睨んだ。
               「それよりさ、ジョーの兄貴見なかった?」
               「ジョー?」
               「うん、さっきまでいたのに急にいなくなっちゃたんだ」
               「そうか。今日はレースが早く終わるって言ってたのにな」
               「大方、寝てんのとちゃうか」
               「それは竜だろ。違うよ、きっとまたすんごい美女でも見かけて行っちゃたんだよ。
               何しろ気まぐれだもんな、いい気なもんだ」
               「ニャー、ニャー、ニャー!(おい、甚平、後で覚えておけよ!)」
               「あらあ、どうしたの?わかった、お腹空いてんでしょ。あとでキャットフード買っ
               てきてあげるから我慢なさいな」
               「ニャー、ニャー、ニャー!(ジュン、俺は別に腹減ってねえ!)」
               「はいはい、わかったから」
               「ニャー・・(わかってねえだろ)」
               ピー、ピー。
               「はい、こちらG1号」
               『忍者隊の諸君、私のところへ集まってくれ』
               「わかりました」
               「どうしたの?健」
               「鉄獣かい?」
               「わからん。それじゃ行こう」
               「じゃ、あなたは留守番ね」
               ジュンが降ろそうとすると、猫は駄々をこねた。しがみついて、まるで連れてってく
               れという感じだ。
               「わかったわよ、博士に怒られたって知らないから」
               健はブレスレットのスイッチを押した。
               「ジョー、どこだか知らんが、博士からの招集だ。来いよ」
               健はジョーから特に返事はなかったのが気にはなったが、そのまま3人(と1匹)を
               引き連れて三日月基地へと向かった。








                          ー 後編へ続く ー




        
                             fiction