『兄貴』


                   深い洞窟の中を、コンドルのジョーと燕の甚平の2人が用心深く進んで
                   いた。
                   ギャラクターの基地であるとの情報を得た科学忍者隊は、2手に別れ、
                   中を探っていたのだ。
   
                   ジョーの後ろを歩いていた甚平は、上から滴り落ちる冷たい水に驚いて
                   思わず声を上げた。
                   「ひゃあっっっ!!」  
                   「うわっ」
                   ジョーは、ふいに甚平に後ろからしがみつかれたので同じように驚いて
                   立ち止まってしまった。
                   「甚平!変な声出すんじゃねえよ!」
                   「ごめーん。だってさー、オイラの背中に水が。」
                   「バカっ。気づかれたらどうするんだ…行くぞ。」
                   「変だな。。鳥の羽根って水弾くんじゃなかったっけ?」
                   「おい、甚平。」
                   甚平は慌ててジョーの後をついて行った。
                   しばらくして、甚平がこう言いだした。
                   「なあ、ジョーの兄貴。聞いてくれよ。」
                   「え?」
                   「アニキのヤツ、本当に腹立つんだぜ。」
                   「何だ、喧嘩でもしたのか。」
                   「うん……そりゃあさ、オイラはまだ子供かもしんないよ?でもさ、話を
                   聞いてくれたっていいじゃねえか。」
                   「お前、また困らせる事でもしたのか?健だってむやみやたらに怒ったりし
                   ねえと思うがな。」
                   「そうなかあ。」
                   「甚平、何があったが知らねえが、健はお前の事を思って叱ってんだろ。
                   俺はあいつと長い付き合いだから分かるぜ。あいつは無駄だと思う事はしね
                   えからな。」
                   2人の会話はそこで途絶えた。
                   ギャラクターの隊員達が目の前を横切ったのを見たからだ。
                   「あ!」
                   「行くぞ、甚平。」
                   「分かった!」
                   2人は次の瞬間には、打ち合わせしたかのように飛び出して次々とギャラク
                   ターに立ち向かった。ジョーが羽根手裏剣で的確に相手の喉元を狙い、甚平
                   はクラッカーで敵の動きを封じて行った。
                   彼らにとってはギャラクターの雑魚など相手にとってあまりあるものであり、
                   甚平はこんな事を言い退けた。
                   「へへんっ、甚平様にかかればざっとこんなもんよ。もっと手強いヤツ出て
                   きやがれってんだい。」  
                   「甚平、早く来いっ」
                   「へいへい。」

                   再び進んだものの、飽きたのか、甚平がまたこんな愚痴を言いだした。
                   「オイラ、本当にアニキたちが本当のアニキたちだったらなあって思ってる
                   んだ。……オイラには親もそうだけど、兄弟だっているかどうか分かんねえ
                   もん。お姉ちゃんもいいけどさ、やっぱ男同士って憧れるよね。」
                   「その点、健はいいじゃねえか。頭は切れるし、頼りがいのある男だから
                   な。」
                   しかし甚平はぷいっと頬を膨らませて言った。
                   「オイラ、アニキと喧嘩中だ。褒めたりしないからな。」
                   ジョーはやれやれと頭を振った。
                   「なあ、これからもオイラの相談に乗ってくれよ。アニキじゃどうしようも
                   ない時とかさ。」  
                   「怒られた時とかな。」
                   「もうっ」
                   ジョーは笑った。
                   「とにかくさ、アニキじゃどうも真面目でいけねえや。」
                   「…俺は真面目じゃねえって言うのか?」
                   「だって、どう考えったってジョーの兄貴の考えって子供みてえじゃねえ
                   か。」
                   「言ったな、こいつ!」
                   ジョーは甚平のヘルメットをつかんでぐりぐり動かした。
                   「うわああっ」
                   「甚平、落ち合う地点はもうすぐだ。健と仲直りするんだな。」
                   「…分かったよ。嫌でもそうするしかないよね。」
                   「ったく、世話が焼けるぜ。俺は何もしないからな。自分で何とかしろよ。」
                   「うん。ジョーに話してすっきりしたよ。」
                   ジョーは鼻で笑って先を進んだ。甚平は小走りに後に続いた。





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