『 贖罪(しょくざい) 』ー
9月29日命日記念ー
光溢れる広い草原のようなところに、横たわる男女がいた。
やがて彼らは目を覚ましたが、女性の方ははっとしたように辺りを見渡した。
「・・・・あの子は・・・あの子はどこ・・・」
男性はそんな彼女を支えた。
「カテリーナ。」
「坊やはどこなの?・・・ねえ、あなた、あの子は・・・・まさか、捕まっ
たんじゃー」
カテリーナは思わず口を両手で覆った。そしてジュゼッペもそんな彼女を見
て何か言おうとした時、声が聞こえた。
『嘆く事はない、アサクラ夫妻。』
「誰だ!」
『私は天の使いだ。あなた方の子はまだ地上にいる。』
「・・・生きているのか。」
『・・・そうだな。一時的、というべきかな。子は一旦、命を落としたが、
助けた。』
夫妻は顔を見合わせた。
『だが、10年だけだ。彼にある役を果たしてもらおうと想ったのだ。あな
たたちのいた組織を破壊してくる事、それがあの子の使命だ。』
ジュゼッペは眉をひそめた。
「・・・ギャラクターを・・つぶすため・・?」
「・・・殺されてしまうかもしれないわ、そんな危ない事を、あの子にやら
せるの?」
『心配する事はない。使命を果たすまで守る。そして、それが終わったら、
あなたたちのところへ戻そう。・・そうする事で、あなたたちの罪も赦され
よう。』
「・・・・・。」
「・・私たちの罪をあの子に負わせるのか。」
ジュゼッペは目を閉じ、うつむいた。カテリーナはそんな夫の肩にそっと
手を置き、同じように目を閉じた。
天の使いは行ってしまったらしく辺りは静かになった。
2人は地上を見下ろした。まだ青く美しい姿のままだ。
ギャラクターは今や巨大な組織となり、全世界を陥れようと日夜企ててい
る。
2人はそんなところにいた自分たちを恥じていた。
なんて事をしてきたのだろう。彼らのしている事はすべて反社会的な行為
ばかりだ。一員として、しかも最高幹部としてその悪事を仕切ってきたの
だ。
もちろんその分の見返りは十分あった。おかげでジョージには何不自由な
い暮らしをしてあげられた。
だか、ジョージは両親が不在がちである事に加えて、2人が悪い組織に入
っているという噂のために何人かの人たちから迫害を受けていた事で、
不良のような振る舞いをするようになった。
ジョージはまだ小さかったので本当の事は知らなかった。
だけど、彼は勘が鋭い。薄々両親が何かをしていると言う事は気付いてい
たかもしれない。
だが、ジョージはそれを知らないかのように2人の前では振る舞った。
大好きな両親がそんな事しているなんて信じられなかったし、悲しむ顔を
見たくなかったからだ。
ジュゼッペとカテリーナはジョージの身を案じた。
自分たちの罪を負うには幼すぎる。そんな組織の事は他の人に任せて、
10年と言わず、いますぐ自分たちのところへ戻して欲しかった。
きっと自分たちの息子を介して、自分たちの大罪を改めて見つめ直せと
いう神の思し召しなのだろう。
ジョージはあの後、国際科学技術庁の南部博士に引き取られ、やがて彼
の指揮の元、他の4人の若者たちと共に「科学忍者隊」のメンバー、
「コンドルのジョー」としてギャラクターに立ち向かう事になった。
しかし、彼は10年しか生きられない。本人は自分に課せられた運命を
知る事もなく任務を遂行してきた。
もう期限があまりないという年、ジョージ(ジョー)は、病に冒された。
彼はまるで使命を悟ったがごとく、病魔と闘いながらギャラクー本部を
突き止め、そして結果相手は滅びた。
ジョージは2人の元へ戻って来た。
しかも、別れた時の、子供の姿で。
両親は息子をしっかりと抱きしめた。今度こそ、親子3人で幸せに暮ら
せる。もう邪魔するものは何もない。
光が優しく3人を包み込み、やがて消えた。