『 将 来の夢 』





                 スナックJ。カウンターの隅にあるテレビでは色々な番組がやっていて、
                 時々手を休めてはそれを眺めている甚平とジュンがいた。
                 まあだいたいは何かしらやっていて「しながら」というパターンが多いのだが。
                 そんな中、着飾った人たちが写った。ある講堂のような場所できちんと座ってお
                 り、壇上には偉い人が喋っている。聞いている人たちはみな神妙な顔つきだ。
                 「お姉ちゃん、どうしてみんないい格好してんだろうね」
                 「え?」ジュンは甚平の後ろから覗き込んだ。
                 「あら、これ『成人のお祝い』よ。ここの人たちは20歳になったの」
                 「ふーん」
                 「素敵ねえ、私もこんな着物着てみたいわ〜」
                 「お姉ちゃんは着物なんか着なくなってそのままでいいんじゃない?」
                 「どういう意味よ」
                 「だって、どう考えても着物に負けるもんーーーいててて」
                 甚平は手をバタバタさせて暴れた。ジュンが頬をつねってぐいっと顔を上げた
                 からだ。
                 「離してくれよ〜」
                 ジュンはパッと手を離した。
                 「もう・・乱暴なんだから」
                 「もう一度言ったらもっど酷いわよ」
                 そこへカラン・・と鈴の音がしてドアが開いた。健たち3人が入って来たと
                 分かると、外向けの顔をしようとしたジュンは何だと言う顔をした。
                 「兄貴ー、お姉ちゃんってば酷いんだよー」
                 甚平はギロッと睨んだジュンを見て口をつぐんだ。
                 「どうした。またこき使われたのか?ははは」
                 「・・・ちっ」
                 ジョーはジュンの前にスッと置いた。
                 「しょうがねえから、みんなの分」
                 「はいはい、それじゃ少し付けるわね」
                 ジュンはとたんににこやかになって奥へ引っ込んだ。
                 「ゲンキンだな、お姉ちゃん」
                 彼らの前にはいつものコーヒーと、一切れのケーキがセットになって置かれた。
                 何でも、ISOの関係者が差し入れに来たらしい。
                 それほどスナックJの財政状況が逼迫していると言う事か。
                 「そういえば、今日は『成人の日』だな」
                 テレビを見ていた健はそう言った。
                 「いつかは俺達も大人になっていくんだな」
                 「普段はそんな事考える事ねえからなあ」
                 「だけどさ、兄貴たちは何になるか決めてるでしょ、オイラ、何も考えてない
                 よ」
                 「そうか・・・甚平は何になりたいんだ?」
                 「前は俺といたとき、レーサーになりたい、って言ってなかったか?」
                 「そうか」
                 「ふーん?俺にはパイロットかっこいいとか言ってたぞ」
                 「・・・そうだっけ・・?」
                 「あらやだ、なりたいものが多いのね。すぐ影響されるんだから」
                 「そう言うお姉ちゃんは何なのさ」
                 「そうねえ・・」ジュンは目を閉じた。「やっぱりお嫁さんかしらねー」
                 「そうか、兄貴のね」
                 「甚平!誰も健だなんて言ってないでしょ!」
                 ジュンはふんとすましてどこかへ行ってしまった。
                 「あれれー、素直じゃないなあ」
                 「甚平」ジョーは残念そうに口をとんがらせる甚平に言った。「本人の前で言う
                 訳ねえだろ」
                 「オラも可愛子ちゃんと結婚して、あったかーい家庭を築きたいもんだワ」
                 「ねえ、ジョーは?結婚して家族を作りたい?」
                 「俺は今はレーサーになる事しか頭にねえよ。結婚は・・そうだな、レーサーに
                 なってうんと稼いでから、だな」
                 ジョーはちらと健を見た。
                 すると甚平。
                 「そうだよね、やっぱり”お金”がなきゃね」
                 健はごほんと咳払いをした。

                 夜中近くになった。まばらではあったが、お客さんが入って今日はなかなかの賑
                 わいだった。
                 ので、2人は久しぶりに忙しい1日だったが、片付ける様子も何だか楽しそう
                 だった。
                 皿を拭いていた甚平は、サイドボードにそれらを並べているジュンに声を掛け
                 た。
                 「ねー、お姉ちゃん。本当はどうなの?」
                 「ええ?」
                 ジュンは甚平を見たが、ああ、昼間の会話の続きか、と思った。
                 「お嫁さんだよ」
                 「さーねー。健にもう少し頑張ってもらわないとムリかもねー」
                 「やっぱり」
                 「でもそれだけじゃつまんないわ。何か楽しい事したいな。でも・・大人かあ。
                 何だか実感沸かないわねえ。だって、まだあと4年あるんだもん」
                 「そんな事言ってたら、20過ぎてどんどん行って、しわくちゃのおばあちゃん
                 になっちゃうよ、お姉ちゃん」
                 「・・んもうっ、ヤな事言うわね」
                 そうこうしているうちにカウンターの上はすっかり片付いた。そこをぞうきんで
                 拭いたら終わりだ。
                 「さて、これでおしまい。今日もお疲れさま」
                 「うん、お姉ちゃん、お疲れさまー」
                 「忘れ物ないわね」
                 「うん!」
                 甚平は駆け上がり、ジュンは店の灯りを消した。
                 そしてスナックJの看板の灯りも消えた。

                 科学忍者隊の若者達はまた悪に立ち向かう。世界の人々の夢と希望を守るため
                 に、そして自分たちの夢を叶えるために。






                                 ー 完 ー





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