『 Luce(ルーチェ)〜 導きの光〜 』







              ジョーはぼんやり遠くを眺めていた。
              そして彼の近くでは、小さな男の子が本を読んでいた。
              地上からの船から神の元へと連れて行って以来、面倒を見ている。
              そして男の子といえば、すっかりジョーに甘えている始末だ。

              ある日、いつものように2人でいると、男の子は何やら光るものを見つけてそれを集め出
              した。
              それはまるで球のように丸くなり、男の子の手の中で大きな光の玉となってキラキラ輝
              き始めた。
              ジョーはじっとそれを見つめた。
              なんだろう、この不思議な感覚は。

              「これ、お兄ちゃんにあげる」
              「・・え?」
              言うが早いか男の子はそれをジョーに差し出した。
              ジョーは戸惑ったが、受け取った。
              男の子は満足そうに笑って行ってしまった。
              「おい、待てよ。どこ行くんだ」
              「すぐ戻るよー」
              男の子は手を振った。
              やれやれ、とジョーは頭を振った。
              「しょうがねえな」

              夜になった。
              といっても、ここでは地上とは違って常に夥しい数の星が輝いているから白夜のように
              うっすら暗い程度だ。
              ジョーはそんなわけでここにきた当時は寝不足に悩まされたが、今では少し暗くなった
              だけで眠れるようになった。
              それだけ心の平安が得られるようになったと言うことか。

              ふとジョーは男の子がくれた光の玉を思い出し、辺りを見渡した。
              それは木の下に置いていたのだが、それの代わりに光の帯のようなものがひたすらどこ
              かへ続いているのが見えた。
              「なんだあ、こりゃあ」
              ジョーは思わず声に出してそう言ったが、気がついたらそれを追って歩き出していた。

              どのくらい歩いただろうか。
              しばらくして視界が開けた。

              目の前には男女。二人とも自分に微笑みかけている。
              女性の手にはお菓子の乗ったお皿があった。

              「感謝祭の時のコロンバ(鳩の形をしたお菓子)だな」

              思わずジョーはそう言った。

              が、それはすぐに消えて、元の静けさが戻った。

              ジョーは光の帯を再び伝って歩き出した。


              再度視界が明るくなって、今度は小さな子供の姿が見えた。
              女の子と男の子。楽しそうに追いかけっこしている。

              それはー

              ジョーはハッとした。またその光景が消えてしまったからだ。

              彼の愛する人たちの楽しそうな姿。
              ジョーは大きく息を吸ってまた歩き出した。
              そんな彼の後ろから光の玉を渡した男の子が立っていた。
              そしてこう呟いた。

              ー大丈夫だよ、お兄ちゃん そのまま行って

              光の帯を追っていたジョーは足を止めた。

              「・・・健!」

              目の前にはセスナの手入れをしていた健の姿があった。
              彼は振り返ってジョーを見たが、すぐに消えてしまった。

              「・・・・」

              光の帯はずっと続いていた。
              しばらく行くと、やがてジュンと甚平がミラーボールの下でお客さんたちと一緒に踊っ
              ている姿が見えた。
              音楽が鳴っていると思われるが聞こえない。

              ジョーは2人の元気そうな表情を見て思わず笑みを浮かべた。

              またその光景は消えてしまい、薄暗い森の中に戻った。
              いつの間にここまで歩いてきたのか。

              光の玉が浮いて帯が再び現れた。
              そして男の子が見守る中、再び歩き出した。

              海に出た。
              天国に海、なんて冷静に考えたらあり得ないのだが、ジョーはごく自然に近づいた。

              そこでは弟と泳ぐ竜の姿があった。
              海で育った彼らは本当に泳ぎがうまい。
              ジョーも島育ちだから泳ぎは得意だが、彼らは特別だ。
              今日も新鮮で美味しい魚とか食べるんだろうな。

              ジョーは光の帯を伝って歩いた。


              どのくらい立ったであろうか。
              ジョーは目を覚ました。
              男の子は膝の上に頭を乗せて寝ている。

              あれから寝てしまったのか。
              なんだ、夢だったのか。

              ジョーは男の子の手の中の光の玉を見つめた。
              これが導いていたのか。
              それともー

              「不思議な夢を見たな」

              そうだ、きっと夢だったのだ。
              光が大事な人たちを忘れないように導く夢を。

              ジョーは再び目を閉じた。
              まだ夜は始まったばかりだ。



    
                              ー  Fine   ー




      <あとがき>

      このフィクのイメージとして、こちらのビデオを参考にいたしました。
      不思議な光の紐を伝って、色々なところへ導かれるテイラー・スフィフトを描いています。
      曲調もとてもメロディアスで素敵なビデオです。




        







                          fiction