『 死者の日ー Festa dei morti 』




               欧州での11月最初の日曜日は「死者の日」と呼ばれている。
               日本で言う「お盆」のようなもので、その日はあの世から霊が降りて来て子孫を訪ね
               るのだ。
               彼らは先祖の霊を迎え、そしてもてなし、その後家族で墓参りをする。

               BC島(シシリー島)でもその日は街の至る所に、名物のお菓子が並べられる。
               フルッタ・マルトラーナ(Frutta Martorana)と言うそのお菓子は、マジパンでフルーツ
               を象った甘いお菓子で、見た目もまさにフルーツそのもので、一見すると見紛うほど
               だ。
               また、「死者の骨(Ossa di morto)」と呼ばれる、砂糖をガチガチに固めたものもり、
               見た目も白い部分が骨そのものだ。
               そしてその日は家庭でもそれの他にも色々なお菓子がテーブルに並べられるので、子
               供達はとてもワクワクする日でもあるのだ。

               ジョージの家でもカテリーナや親戚のおばさんが作ってくれたお菓子がたくさん置か
               れ、子供達は目を輝かせていた。
               ジョージは何度かカテリーナの目を盗んでつまみ食いをしようと試みたが、失敗に終
               わった。彼女も毎度の事なので、パパと遊んでらっしゃいと彼を追い出してしまうの
               だ。
               でもホントはジョージはお菓子も気になるが、ママの側にいたいのだ。それは彼女も
               分かっていた。
               何しろほとんど家を空けて彼を寂しい思いにしている。だから彼に対して申し訳ない
               気持ちで一杯だった。


               カテリーナはふうとため息をついて、まだ火のついていない暖炉を見つめた。そうい
               えば、もうすぐNatale(ナターレ:クリスマス)だ。何事もなければジョージと一緒に
               いられるだろう。

               「ねえ、ママ?」
               カテリーナは足元で腹這いになって本を読んでいたジョージを見下ろした。
               「なあに?」
               「天国ってどこにあるの?」
               「ええ?どうしたの、急に」
               「前に、牧師さまが言ってたでしょ。天国のお話」
               「ああ・・そうだったわね。天国は・・ずっとずっと上のほうにあるのよ」
               するとジョージは起き上がった。
               「ずっとずっと上?落っこちてこないの?」
               カテリーナは思わず笑った。
               「そうね。きっと大丈夫なのよ」
               「すごいね!だって人がたっくさんいるんでしょ。あ・・そうだ、動物も虫もいるん
               だね。天国にたっくさん」
               「そうね」
               しかしジョージは思案顔になった。
               「・・あ・・でも・・悪い事した人もいるのかな・・。だとしたら、怖いな・・」
               カテリーナはほほ笑んだ。
               「きっとそういう人も良い人になるのよ。神様が悪い人を良い人に変えてくださる
               の。天国は、心が綺麗な人が来られる場所なのよ」
               「じゃあ安心した!」
               ジョージはカテリーナに抱きついた。
               カテリーナは彼をぎゅっと抱きしめて頬にキスをした。


               「あの子はなぜあんな話をしたのかしら」
               ジュゼッペはカテリーナを見た。
               「『死者の日』があったからじゃないか?」
               そしてまた視線を落とした。
               「・・だんだん大きくなって・・色々と興味を示していくんだろうな。このごろは会
               う度にだいぶしっかりしてきてハッとする事があるよ」
               カテリーナはふっと軽く笑った。ので、ジュゼッペは彼女を見つめた。
               「どうした?」
               「あの子にあんな事言っちゃって・・・。自分たちはあんなところにいるくせにっ
               て。・・悪い心のままでは天国に入れない。・・きっとそうなのね・・」
               彼女は頭を振った。
               「私たちは・・サタンに会うのかしら」
               ジュゼッペはうつむいて目を閉じた。
               「・・・かもな」
               しばらく2人は何も言わずにいたが、ジュゼッペは腰を上げた。
               「さて、坊主の様子でも見に行くか。久しぶりに会えた息子の寝顔を見て俺も寝る
               よ」
               カテリーナはうなずいて、彼の寂しそうな背中を見つめた。
               (いつか・・普通の家族のように笑って過ごしたい・・)
               彼女は目の前の大きな窓に目をやって輝く星を見つめた。






                              ー 完 ー





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