『 Destiny's Childー運命の子 』


            





               「カテリーナ・アサクラ!」
               カテリーナはハッとして顔を上げた。
               「・・は、はい」
               「何をぼんやりしている」
               カテリーナは目の前にいる金髪の目つきの鋭い女を見た。
               「申し訳ありません」
               「ふん、あの男と結婚してちょっと腑抜けにでもなったか」
               女はフッと笑った。
               「まあ良い。お前はとても優秀な隊員だ。デブルスターを率い、見事な戦いぶり。
               司令官にしてよかった。いずれは最高幹部への道も約束されよう」
               カテリーナはお辞儀をした。
               「身にあまる光栄でございます」
               「そうそう・・この前子が生まれたと聞いたが」
               「は、はい」
               「男だと聞いた、いいことだ。男ならより我々の助けになれよう」
               「あの・・あの子はまだ生まれたばかりですが・・」
               「生まれたばかり!そうだ、それがいいのだよ。幼ければ幼いほどいい。変に知恵が
               つく前に教育させれば余計な心配はいらないからね」
               カテリーナは覚悟はしていたが、冷静にこう言った。
               「どういうことでしょうか・・」
               「それは今にわかることだ。それよりも仕事に専念しなさい。いいね、お前はー」
               女はじっとカテリーナを見つめた。
               「”冷徹な女司令官”を貫くことだ。部下から馬鹿にされぬようにな」
               女はそう言って不敵な笑みを浮かべるとその場から立ち去った。
               カテリーナは俯いた。


               カテリーナは家路を急いだ。
               休みが取れた際にはできるだけ多くの時間を子供と過ごしたい。
               ずっと子の顔を見ていたいのだ。
               「ああ、カテリーナ。すべて終わったから安心して」
               「ありがとう、助かるわ」
               彼らが留守の間は、近所の女性たちが息子の面倒を見ていてくれていた。それが長丁
               場になることもあったが、皆お互い様よと気にしないて引き受けてくれる。
               カテリーナは手をきれいに洗うと、すぐさま2階へ上がった。家にいるときは両親と
               一緒の寝室なのだが、1階よりも安全な2階の部屋に寝かされていた。
               カテリーナは微笑むと、眠っているジョージの頬に触れ、そっと抱き上げた。眠った
               ばかりなのかムズムズ動き出したが、また安心したように静かになった。
               カテリーナはベッドに腰掛け、じっと彼を見つめた。
               ふと女の言葉が頭をよぎり、彼女は思わず目を閉じた。
               「駄目よ!」
               カテリーナはぎゅうとジョージを抱きしめた。そして相変わらず眠っている彼を見
               た。
               「思い通りに行くものか。私はこの子を渡さない。絶対に・・」
               そしてこう続けた。
               「あなたを守るからね」

               その日、かなり遅い時間にジュゼッペが帰ってきた。彼はまだやることがあって残っ
               ていたのだ。
               そして彼もやはり2階に上がってきた。ジョージに会うためだ。
               ジュゼッペはその部屋のドアを開け、そしてホッとしたような表情をした。そうか、
               カテリーナが先に帰ってきていたのか。
               彼女は毛布に包まれたジョージを抱いて微笑んでいる。
               ジュゼッペは何も言わず、じっとその姿を見つめた。

               聖日の夜。町中に人々が溢れ、教会へと続いた。
               その丘の上に建つ教会はそう大きくないものの、大勢の人々がやってくる。
               その近くには建物の高さを越えるほどのもみの木がそびえ、その頂には輝く星が人々
               の足元を照らしていた。そして街のいたるところにはプレゼピオが飾られ、電飾も道
               を彩っている。
               人々が教会の中に入り祈りを捧げる中、ジュゼッペと、ジョージを抱いたカテリーナ
               の2人は後ろの方に腰掛けていた。
               人には言えない仕事をしている彼らは自然と人目を避けるように過ごすことがすっか
               り身についてしまった。
               それでもこうして教会にやってくるのはある意味懺悔の意味でもある。せめてこうし
               て神様の元へ出向いて自分たちの罪を悔いあたらめようとの思いがあった。
               子供の無垢な寝顔は彼らにとって大きな救いだ。この時ばかりは嫌なことはすっかり
               忘れよう。

               説教と讃美歌が終わり、教会から人々が帰り始めた。
               ジュゼッペたちもゆっくり会堂を後にした。
               やがて歩き出した彼らだったが、それまで眠っていたジョージが目を開いてカテリー
               ナを見上げた。
               「あら、起きたの?」彼女は彼の頬に触れた。「なあに?」
               ジョージは空に向かって何か言いたそうに手を伸ばした。
               空から白いものがちらちらと降ってきた。
               「まあ雪ね」
               カテリーナは心なしか声を弾ませた。何しろこの島では珍しいからだ。
               「綺麗だこと」
               そしてふとそんな自分たちを見ているジュゼッペに気づいて彼にこう尋ねた。
               「どうかしたの、あなた・・」
               「いや・・・不思議な気がしてね。ジョージを抱いている君を見たとき、まるで御子
               を抱くマリア様に見えたんだ。・・・以前、牧師様がおっしゃってただろ、この子を
               見て”世を照らす光であれ”と・・なんだか近い将来この子が何かどでかい事をしでかす
               のではないかと思えてならないんだよ」
               カテリーナはまあ、とふふと笑い、ジョージを空高く持ち上げた。彼は無邪気に手足
               を動かして喜んでいる。
               「あなたは私たちのイエス様ね。一体何をしてくれるのかしら?」
               両親はこの子が本当にこの世に希望をもたらしてくれるような気がした。それは自分
               たちをも救ってくれるかもしれない。
               彼らは人々に紛れて家路に着いた。

               Destiny’s  Childー運命の子。
               きっと神様が人々に与えた切り札なのだ。
               その時が来るのは何年後かはたまた永遠に続くのかー
               案外それは早く来るのかもしれない。


               Un buon Natale .



                              ー Fine ー








                    christmas_in_candles








                              fiction